再発率は約80%!性器ヘルペスはコンドームでも予防しきれない厄介な性病です
性器ヘルペスは、単純ヘルペスの1型あるいは2型の感染を原因とする性病です。性器を中心とした部位にピリピリ、あるいはチクチクした痛みを感じた後、水ぶくれやただれができるのが特徴で、性器クラミジア感染症と淋病に次いで感染者数が多くなっています。
性器クラミジア感染症と淋病が若い世代を中心に蔓延しているのに対し、性器ヘルペスは幅広い年代層にほぼ同数の感染者がいるのが特徴です。
ヘルペスと言えば、従来、口の中の粘膜や唇にオデキができるものを「1型」、性器を中心として下半身にできる「2型」として分類していましたが、どちらのタイプも性器に感染して病変をつくることがわかっており、実際、女性の性器にできるヘルペスの過半数は、口にできるとされていた1型によるものです。
このようなことが起こる原因は、オーラルセックスなど性行為が多様化していることにあると考えられます。すなわち、1型のヘルペスウイルスに感染している女性がフェラチオをした場合、相手の男性の性器に感染させてしまうこともあれば、その逆に2型のヘルペスウイルスを持っている男性の性器から女性の口に移してしまうことがあります。
また、1型ヘルペスウイルスを持っている人が、唇をふれた手で性器を触るなどして、自分の性器に1型のヘルペスウイルスを移してしまう可能性もあります。したがって、セックスの経験がない女性でも、性器にヘルペスができることは十分に考えられるのです。
性器ヘルペスの症状は、ウイルスに初めて感染した際に現れるものと、潜伏感染していたウイルスが再活性化した際に現れるタイプの2つがあります。初めて感染した場合、免疫がないので症状は比較的強く現れます。
具体的には、最大で10日くらいの潜伏期間の後、まず性器にかゆみや違和感を伴った小さな水泡(水ぶくれ)が複数現れます。数日後には破れた水泡がくっついて、月面のクレーターのような円形の潰瘍ができて、強い痛みを感じます。症状が強い場合、痛みのために歩行すら困難になったり、発熱、足の付け根が腫れあがることもあります。
性器ヘルペスが厄介な病気とされるのは、一度でもウイルスに感染してしまうと、症状が治まった後もウイルスは感覚神経の神経節(神経細胞)に潜り込んだままなので、風邪やストレスなどで体の免疫力が低下すると、何度でも再発し、水ぶくれ、赤い発疹・ただれなどの症状を引き起こすということです。
初めて発症した人の1年以内の再発率は約80%と非常に高くなっています。ただし、再発時の症状は、初めて感染した時ほど重くはなく、1週間程度で消えます。
初発・再発にかかわらず、治療を行わないでそのまま放置していても、自然と神経節にウイルスが潜り込んで症状は消えますが、不快な症状に苦しめられる期間を短縮するために、抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビル(ゾビラックス)や塩酸バラシクロビル(バルトレックス)という薬が処方されます。再発時にもこれらの薬が有効ですが、現在の抗ヘルペスウイルス薬では潜伏しているウイルスを排除することはできません。
性器ヘルペスは臀部、太もも、肛門などコンドームが覆うペニス以外の部位にも病変ができ、指で触れたり、キスなどの接触でも感染するため、セックスの際にコンドームを付けるだけでは予防できないので注意しましょう。
性器ヘルペスを発症すると他の性病の感染リスクも増大させてしまいます
性器ヘルペスの最大の特徴は、上記のように「免疫力が低下すると何度も再発を繰り返す」ことですが、再発を繰り返すうちに性器や性器周辺の皮膚がただれたり、傷がついたりします。これによって、皮膚のバリア機能が破壊されてしまうのです。
皮膚のバリア機能が正常に作用していれば、ウイルスなどの外敵が体に侵入することは容易ではありません。しかし性器ヘルペスによってバリア機能が低下していると、クラミジア、淋病、梅毒、エイズなどの他の性病にも感染しやすくなってしまうのです。
また、エイズの人が単純ヘルペスウイルスに感染した場合、症状が重症化することがわかっています。単純ヘルペスウイルスの活動を抑制するには、単純ヘルペスウイルス自体への免疫があるだけでなく、体全体の免疫機能が正常に作用していなければなりません。エイズの人は免疫機能の大半が破壊されてしまっているのです。
さらに性器ヘルペスに感染すると、パートナーを大きなリスクに晒すことになります。クラミジアや淋病、梅毒、エイズなどの性病にかかっている人が性器ヘルペスを発症した場合、水ぶくれや潰瘍のジュクジュクした部分には、ヘルペスウイルスだけでなく、他の性病のウイルスや菌もたくさん存在しているのです。
この状態でパートナーとセックスをすれば、性器ヘルペスを通じて他の性病も同時感染させてしまう恐れがあります。
性病への対策が進んでいる欧米諸国では、性器ヘルペスはエイズの感染リスクを高める原因の一つと認識されており、性器ヘルペスの撲滅キャンペーンや啓発活動が定期的に行われています。
一方、日本では単純ヘルペスウイルスの感染者は増加傾向にあります。男性では20代後半と中高年の感染者が増加しているのに対し、女性では20代の感染者が最も多くなっています。若い女性は性器ヘルペスに限らず、性病全体の若年化が懸念されています。
単純ヘルペスウイルスの感染者増加の背景には、幼少時の過剰なまでの清潔志向(授乳時の乳首の消毒、砂遊びの禁止、抗菌グッズの氾濫)などによって、ウイルスに対する免疫を持つ機会が失われていること、セックスパートナーが複数いる男女が増えていること、セックスの低年齢化と多様化(オーラルセックス等)、経口避妊薬(ピル)の利用増加によるコンドームの使用率の低下、といった要因が指摘されています。
抗ヘルペスウイルス薬(ゾビラックス、バルトレックス、ファムビル)の特徴と注意点
性器ヘルペスの治療の中心は抗ウイルス薬です。抗ウイルス薬には内服薬、外用薬(軟膏)などがあり、患者さんの症状の程度、治療方針によって決定されます。代表的な抗ウイルス薬には、アシクロビル(製品名:ゾビラックス)、塩酸バラシクロビル(バルトレックス)、ファムシクロビル(ファムビル)、ビダラビン(アラセナ-A)などがあります。
いずれのお薬も皮膚や粘膜の水ぶくれ、発赤、ピリピリとした痛みなどの不快な症状に高い効果を示しますが、ゾビラックスは消化管からの吸収効率がそれほど優れていないため、十分な効果を得るためには1日5回も服用する必要があります。
ゾビラックスの欠点を改善したのが、1日3回の服用で効果を発揮するバルトレックスです。ファムビルは、比較的新しい薬で、一度服用すると効き目が長持ちするのが最大の特徴です。
使用頻度が高いゾビラックスとバルトレックスは、ウイルスだけに作用する安全性の高い薬ですが、プロベネシド(ベネシッド:痛風治療薬)、シメチジン(タガメット:胃薬)、テオフィリン(テオドール:喘息治療薬)などの特定の薬と飲み合わせが悪く、作用が強くなるといった副作用が出やすくなるため、注意が必要です。
軽度のヘルペスには、大抵の場合は外用薬(軟膏)で事足ります。外用薬にはヘルペスを発症している部位が拡大するのを防ぐ働きがあり、再発頻度が高くない口唇ヘルペスなどに使用される機会が多いです。しかし、症状は軽いものの、外用薬では感覚神経の神経節で増殖するウイルスを抑えることはできません。
単純ヘルペスウイルス(HSV)の増殖を根本的に抑えるためには、内服薬が効果的です。特に重い症状が現れる初感染時や医療機関を受診した際に既に症状が広がっている場合は、多くの専門医は内服薬の処方を選択します。
重症例や免疫機能が著しく低下している患者さんに対しては、入院して抗ウイルス薬の点滴静注で治療します。二次感染を防ぐために、軟膏などの外用薬を使用したり、抗生物質を服用するケースもあります。
ゾビラックスやバルトレックスなどを医薬品の個人輸入代理店からネット経由で購入し、自己判断で使用する人もいますが、これは危険です。本当にその症状がヘルペスによるものなのか医師の診察なしに診断できませんし、上記のように薬の飲みわせ等のリスクもあります。また自己判断で薬を使用すると、中途半端な服用が増えて、薬剤耐性(薬が効かない)を持ったウイルスが現れるリスクがあるためです。
抗ウイルス薬は効き始めるまでに数日かかったり、薬を服用する前に症状が治まったように感じることがありますが、自己判断で服用を中止せず、医師の指示を守って服用することが大切です。
なお、症状が比較的軽度の口唇ヘルペスに限定されますが、薬局で外用の抗ウイルス薬(アラセナS、ヘルペシア、アクチビア軟膏)を購入できるようになりました。これら以外の抗ウイルス薬は、医師の処方が必要です。